Spare Time Studio

刀剣・刀装具を中心とした高精細画像と『美』にまつわる話を綴る”空閑工作室”

刀装具の撮像【4】《魚子》

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画像をご覧になって、あのテーマ曲を想い出された方も多いのでは。

 

家格によって、あるいは時代によって少しずつデザインに違いはありますが、三つ葉葵は徳川宗家・御三家・松平家の定紋で、大名・旗本の数を合わせれば他と比較して圧倒的に多く、そのため刀装具にはよく見られる画題です。

《魚子》は彫金技法のひとつで、ササン朝ペルシアから中国を経て、奈良時代に日本に伝わったと言われています。画像の黒い部分がそうで、粒状に余白を埋めるのですが、先端が小円になった鏨を使って一つ一つ丁寧に打ち出します。これを魚子(ななこ)を蒔く、あるいは魚子を打つと言い、魚の卵が並んでいるように見えることからそう呼ばれます。

画像の紋は下の目貫の一部を切り抜き、拡大したものです。直径はおよそ13ミリで、その小さなキャンバスに三つ葉葵を彫金するのも大変ですが、蒔かれた魚子の粒の直径は0.2ミリ以下と極小で、肉眼でははっきり視ることさえできません。職人の腕の見せ所です。

 

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ちなみにキャビアの直径はベルーガで2~3ミリ、鯛の卵は0.8~1.2ミリくらいです。

美術工芸品の撮像【1】《蒔絵と螺鈿》(再考)

 

暑さのせいか、作文ができなくて困っています(~_~;)

 

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鼈甲に金蒔絵と螺鈿が施されたアンティークの、それにしても豪華な『櫛』を撮像しました。刀装具用に製作した専用機を使っての撮像ですが、被写界深度が狭く、ピントの調整が大変です。

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この分野にはあまり明るくないのですが、刀装具の『鞘』の中にも絢爛な蒔絵が施されたものがあり、蒔絵師の手による作品と考えれば、興味津々。

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手にとって素見しただけではよく見えませんでしたが、高解像度で撮像し画面上で拡大してみると、高蒔絵と螺鈿の葉脈の表現方法の違いや、それぞれの葉の微妙な表情や質感がよくわかります。

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「光遜」と読むのでしょうか。繊細な線で描かれた茎や蔓に溶けこむような、とても控えめな銘に嬉しくなってしまいました。

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意匠・配置・余白の全てがとても上品です。 

美術工芸品の撮像【1】《蒔絵と螺鈿》

刀装具専用として開発した専用撮像機はオーバーヘッドタイプであるため、厚みが10ミリ程度までであれば、多様な美術工芸品の高解像度撮像にも適しています。

 

ここ最近は、更新が思うように出来ませんm(_ _)m

掲載の写真についての本文は、近日中に書かせていただきます。

 

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刀装具の撮像【3】《離縁》

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「りえん」ではなく、「はなれふち」と読みます。

刀装具のひとつに『縁頭』というものがあり、柄(つか)の両端を保護するパーツで通常は2個で一組なのですが、縁(ふち)と頭(かしら)のどちらか一方がない場合を「はなれふち」と言います。

幸いにも写真の縁頭は製作されてから165年を経て、お互い離れることなく今日に伝世しました。いびつな形状に職人が意匠を凝らし、頭には陽光をバックに小鳥が飛び、縁には梅の花と、なにやら熨斗のようなものが切り枝の根本に結びつけられています。

作者の春明法眼は名を河野春明と言い、幕末に活躍した名工として知られています。東京・亀戸の龍眼寺に碑が祀られています。

 

縁頭の撮像は縁と頭の高さが違うため、特に超高解像度での撮像の場合は、別々に撮る場合もあります。縁の側面を一枚の写真に含める場合は、切り抜きなどの画像処理を施し合成加工をします。(掲載の写真はテスト撮像です。和紙の上に置いて撮像しましたので、内側や外側に影が落ちています)

刀装具の撮像【2】《うっとり》

美しいものに魅せられて、ぼーっとするさまを「うっとりする」と言いますが、ここでの《うっとり》は金工技法のひとつで、前者とはイントネーションの違いで区別します。

刀装具とは鞘や鐔(つば)など、刀剣に付随するアクセサリーのことを指します。画像はそのうちの一つ、目貫(めぬき)と言って左右一対を柄(つか、両手で握るところ)に巻き込んで使用します。元来は戦闘における機能的なパーツでしたが、時代が下がるにつれ装飾品としての意味合いが強くなりました。

この目貫は赤銅地の一部に金の薄板を被せ、密着させる技法を用いて製作されています。この技法が《うっとり》で、画像中の花の大きさは約4ミリ四方、その隣の金の粒は葉に残る水滴、「露」を表現しており、その直径はわずか1ミリです。

人間の眼は不思議なもので、例えばフローリングの床材を見て厚さを想像することができます。《うっとり》も鍍金や箔より厚く、金無垢の質感とも違うのが感覚でわかるのですが、高精細な撮像で得る画像データからは、金の純度を推定することも可能です。

 

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刀剣の撮像【8】《解像度と被写界深度》

刀剣はドキュメントとは違い、立体です。仮に元重ね(厚み)が8ミリある刀剣の撮像をする場合、その半分の4ミリが被写界深度内に収まらなければ、拡大時にピンボケとなってしまい、鑑賞に堪えません。私の実験結果では、この限界が800dpiでした。ピント合わせは刀剣の下に置くゴムの高さで調節しますが、この方法は0.5ミリ単位が精一杯です。原寸で印刷する場合は350dpiあれば十分なので、通常は被写界深度に余裕のある400dpiで撮像します。

添付の画像はピントと被写界深度の実験のために撮像してみました。スキャナを分解してCCD基盤を取り外し、自作の刀剣専用撮像機の光学限界解像度、3200dpiでスキャンしています。上の画像は縮小で、クローズアップは元画像の一部です。

さすがにこの解像度ではピントを合わせられませんが、それでもセンサ内の三原色の内、RedとGreenのラインがうっすらと視認できます。(画像中央、右端部分)もう一本あるはずのBlueは、まわりに融けて見えません。RGBそれぞれの線幅は0.03ミリ以下です。

 

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